スワンの恋-19世紀末パリの社交界でのロマンスはロマンチックではなく

数年前、アランドロン俳優生活50周年記念の映画祭でスワンの恋を観ました。ちょうどプルーストを読み返していたのでいい機会でした。フランス映画びいきなのになぜ本邦初公開時に見なかったのかと訝しく思いましたが、配役を見て納得。ドロンが脇役だったのです。おまけに彼ももう中年に達していたので、リアルタイムでないにせよ若き日の輝く美貌を知っている自分には違和感があったのでしょう。昼間の東急文化村・ル・シネマ、女性ばかりかと思いきや、男性客もけっこういたのが意外でした。

“ブリキの太鼓”のシュレンドルフが描く19世紀末パリの社交界。スワンの恋のエピソードを忠実に再現していて、とても参考になりました。当時の上流階級の住まい、ファッション、習慣、遊びなどなど、ビジュアルで見ると分かりやすいですね。オペラを見たあと優雅に夜食をとったりして、いったい何時まで遊んでいたのでしょう。この時代の上流階級の人々は服の着脱も召使任せ。スワンは侍者と共に念入りに身なりを整えて、パウダーまではたかせて外出します。往年の名画・風と共に去りぬで、ヴィヴィアン・リー演じるスカーレット・オハラが、細いラインのドレスを着るのに召使の手を借りてコルセットを締め上げるシーンを思い出しました。

ドロンが演じるのは、自分の美意識に忠実に生きるゲイのシャルリュス男爵。山高帽に口ひげ、化粧した中年のドロンの姿に往年のドロンファンとしては戸惑うものの、なかなか似合っており、かつての美青年が若い男を物色する中年男を演じるまでになったのだと時の流れを感じさせて感慨深い。小説で、スワンが出入りするサロンに集まる貴族たちが下品で低俗な話題に喜ぶ様子が皮肉っぽく描かれていましたが、映画でもその紳士淑女まがいの晩餐会のシーンが印象的でした。貴族とは名ばかりで知性も教養もない飾り立てたゲテモノたちが滑稽です。プルーストの大作だけあって、これまでにヴィスコンティをはじめ多くの名匠が映画化を試みながら果たせなかったのだとか。それがついに映画化!という期待が高すぎたのか、この映画はあまり高い評価は受けなかったようです。でも私には充分面白かった。面白いと言えば・・・途中から、なぜかスワン(ジェレミー・アイアンズ)が沢村一樹に、オデット(オルネラ・ムーティ)が上沼恵美子に見えてきて、19世紀末のパリから一気に21世紀の日本にワープしたような気になりました。

スワンの恋というからには二人の燃え上がるような恋物語なのかと思えば、決してそうではないところも一筋縄ではいかないプルーストらしい。オデットは当時の高級娼婦で、いわば社交界人士のアイドル。奥様方にとっては気に入らない存在です。スワンはオデットと懇ろになった後すぐに後悔しますが、結局結婚して娘までもうけるのだから不思議。オデットが胸に挿すカトレアの花を直すことが二人の恋の秘密の儀式で、陶然としてオデットの胸に顔を埋めるスワン。オデットを失いかけ、その甘い思い出に焦がれて呟く”カトレア・・・”の一言がまだ耳に残っています。この一言でスワンのオデットに対する欲望を語り尽くしている観もあり、実に濃厚で官能的なセリフです。

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