アナザーカントリー 少女漫画から抜け出してきたような王子様・ルパート・エヴェレット

デジタルリマスター版ってきれいですね。往年の名画が最新技術の処理を施されて蘇るのは喜ばしい限りです。ゴダールの”軽蔑”のデジタルリマスター版を見たときも、カプリ島の自然がさらにまばゆいばかりに輝き、バルドーが素肌に纏う真紅のタオルやカナリアイエローのバスローブがより鮮やかに見えて感激しました。そして今回のアナザーカントリーデジタルリマスター版では、数十年前に初めて観た時の美しさに勝るとも劣らぬ、神々しく上品な魅力にあふれるルパート・エヴェレットに釘付けになりました。

1930年代のイギリス、全寮制のパブリックスクール。第一次大戦で亡くなった卒業生を追悼するミサで、I vow to thee, my country(ホルストのジュピターの旋律)を合唱する生徒たち。ルパート・エヴェレット扮するガイは、金髪の美少年ハーコートを見初めます。歌いながら視線を交わす二人。恋の始まり。双眼鏡で寮の別棟から出てくるハーコートを探したり、クリケットの試合で審判を務めれば彼に有利な判定をしたり、ガイはもうハーコートに夢中。ハーコートを追い求めてついに食事に誘います。複雑な思いで参加した母親の再婚パーティの帰り、着飾って瀟洒なホテルの高級レストランでハーコートを待つガイ。果たして来てくれるのか半信半疑の憂い顔。そこへハーコートが現れた時の二人の輝くような笑顔と言ったら♡今日は二人の記念日だと最高級のシャンパンを開けてお祝い。ため息が出るほど優雅なイギリス上流階級の男の子たち。今日は酔っぱらおうと歓びをはじけさせ、ガイはハーコートに身の上話をします。心を許し合って二人は幸せそうです。

彼らが着こなす服がまた素敵なのです。ダンディズムを産み出したジェントルマンの国・イギリスだけに、色彩を抑えた禁欲的にも見える紳士服のラインナップは見事です。18世紀にイギリスのダンディ王として君臨したジョージ・ブランメルは、”着こなしの上手な人間は決して衣服によって目立ってはならない。いかなる種類であれ、派手な模様は一切寄せ付けてはならない”との名言を残していますが、まさにその価値観を踏襲するような上品なコーディネートです。ミサや結婚パーティでの正装、パーティではジャケットに蘭の花を挿しているのが全く違和感なくおしゃれ♥クリケットのユニフォーム、ガイや友人のチェックのガウン、ストライプのパジャマ、ケーブル模様のベストにセーター、軍事教練時の軍服。共同寝室に並べられたベッドには、ガウンとコーディネートしたベッドカバーがかけられているのもさすが。当たり前ですが洋服とは西洋人のものなのだとしみじみ思います。長い手脚、白皙の美貌にネイビーブルーや黒のダークカラーがよく映えますね。

 

作中、冒頭で寮生が同性愛の現場を舎監に目撃されるシーンの他には直接的な性描写はありません。美しいガイのヌードを一切みせないところもこの映画の魅力だと思います。ガイとハーコートが夜、月光を浴びた湖上のボートの上で抱き合うシーンも生々しくなく、終始着衣で清潔感溢れているのがたまりません。現実にはありえない少女漫画の世界のような禁断の愛にリアリティを与えているのは、ひたすらルパート・エヴェレットという美青年の存在でしょう。ベニスに死す、のビヨルン・アンドレセン然り、美少(青)年という言葉を超越したあまりに美しすぎる人を見ると、時間よ止まれ!と思います。残酷な時の流れで老いていく姿は見たくないと。

輝かしい未来を約束されていたガイですが、同性愛者という理由でエリートコースを逸れ、共産主義に傾倒する友人の影響もあってか階級社会を否定し、スパイとしてロシアに亡命することになります。その骨っぽい友人・ジャドを演じているのがコリン・ファース。ルパート・エヴェレットにコリン・ファース、なんて贅沢な配役。美術品の美しさを堪能できます。白髪の紳士となったガイをジャーナリストが取材すると、彼の部屋には若き日のジャド、愛し合ったハーコートの写真が飾られ、ハロッズのマグカップが置かれています。ジャーナリストは帰国願望はあるか、会いたい人物、したいことなどないか尋ねます。帰国する気はなく、特に会いたい人物もいないが、クリケットがしたいというガイが切ない。イギリスの美しい風景と由緒あるパブリックスクールの寮の設え、少女漫画から抜け出してきたような王子様・ルパート・エヴェレット讃。青春とは苦悩する時代なのですね。

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