みじかくも美しく燃え 

まずこのタイトルに惹きつけられた。原題はElvira Madigan、シンプルにヒロインの名前。それにこの哀切な邦題をつけたのは一連の越路吹雪作品でも名高い詩人の岩谷時子さんだそう。妻子ある中尉とサーカスの綱渡り芸人の美少女との逃避行の物語で、姦通罪のあった19世紀末スウェーデンで実際に起こった心中事件の映画化。

張り詰めた空気が漂う、透明感溢れる映像と、モーツァルトの音楽が美しい。寡聞にして、スウェーデンの映像作家は他にベルイマンしか知らないが、ベルイマン作品も無駄をそぎ落とした禁欲的な緊張感が漲っている。スウェーデンの厳しい自然の中で育まれた感性なのか、宗教的背景があるのか。同じくスウェーデン出身のリサ・ラーソンの作品もユーモラスながら華美な装飾はない。

最初はピクニック気分のような二人。広々とした田園の木陰でパンやチーズを食べ、草花と戯れ、二人だけの世界を謳歌する。自分たちの失踪記事を新聞で読み、笑い合うほど屈託がない。楽しい食事の最中に不注意でワインのボトルを倒してしまい、赤ワインがこぼれていくのが不吉な予感。

一般的に男性よりも女性のほうが現実的と言われるように、この映画でも中尉が終始現実逃避しているのに対して、年若い女の子は現実を見ている。

戦争について二人が語るシーン。

中尉は華やかな閲兵式に象徴される示威運動の延長として戦争を見ているが、彼女は自分がサーカスの巡業で他国にいた際に見た戦争を語る。

サーカスの動物たちはみな焼かれた。戦争は閲兵式ではないわ。焼ける肉の臭いよ。

このセリフが忘れられない。

二人は捕えられたら投獄される身、金目のものを売り払いながら逃げるしかない。彼女がパリで脚の悪い画家に描いてもらった絵を売るエピソードがある。どうやらその画家はロートレックのようだ。いくらで売れたのだろう。そのうち当然金は尽き、彼女は何とかして生き延びようと酒場の踊り子として働こうとするが、中尉は恋人が男に媚びを売る仕事をすることに耐えられず、それも続かない。野生のベリーの実を摘んで飢えをしのぐ二人、もう先がない。

覚悟を決めなくては、と切り出すのも彼女だ。

美しい自然の中で最後の食事をする二人。パンや卵を入れたかごの底には銃がある。銃を見て、とっさに受け入れられない彼女は彼の腕を離れ、野原で草花と舞う蝶を追いかける。牧歌的な映像の中に銃声が二つ響いて終わり。

やるせない映画ではあるけれど、恋人同士は長く一緒にいたところで必ずしも幸せなわけではないので、お互いを必要として激しい情熱に駆られている時の道行きもある意味幸せなのかと最近は思う。

ちなみにヨーロッパ三大心中事件の一つだとか。一つは映画・うたかたの恋で有名なオーストリア皇太子と男爵令嬢の心中事件だが、もう一つは不明。とても気になる。

 

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